先月31日のJAXA相模原キャンパス一般公開では、IKAROS(イカロス)のセミナーと展示がすごいおもしろかった。
IKAROSはソーラーセイル(宇宙ヨット)の実証機。今年の5月にH-IIAロケットで打ち上げられ、現在も宇宙空間を飛行している。詳しくはJAXAのサイトに説明があるので紹介しておこう。
JAXA|小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」
http://www.jaxa.jp/projects/sat/ikaros/index_j.html
~翼を広げて~ IKAROS(イカロス)専門チャンネル
http://www.jspec.jaxa.jp/ikaros_channel/
とはいっても、資料を読むのと、関係者から直接話を聞いたり実物を見たりするのとは大違いなわけで、この日はとても勉強になったのだった。
まずはセミナーに参加。整理券をゲット!定員は200名。対象は中学生以上。
セミナーがスタート。「イカロスの船出と太陽系大航海時代の幕開け」という、ちょっと大袈裟なタイトル(笑)。
講師はIKAROS開発者(たぶん)の森さん。このセミナーが実におもしろくて、IKAROSの技術的特徴や運用時のエピソードなどいろいろと濃い話を聞くことができた。中学生にはちょっと難しい話もあったかな。数学や物理の基礎知識、それに宇宙航法の初歩的な知識があれば理解できるんだけどね。しかしなによりも、開発者自身が話す話というのは生き生きとしててイイ。IKAROSに込めた想いとか、成功したときのよろこびが直に伝わってくる。他の人が話したんじゃそうはいかないからね。
<セミナー内容抜粋>
●ソーラー電力セイルとは
ソーラーセイルとイオンエンジンとのハイブリッドで航行する宇宙機。
(ただしIKAROSはソーラーセイル実証機なのでイオンエンジンは搭載していない。)
ソーラーセイルは太陽からの光圧を帆に受けて進む。
イオンエンジンは電力によりイオンを発生・放出し、その反動によって進む。
●ソーラーセイルの推力
2,000m^2の帆で2gの推力を得られる(「はやぶさ」のイオンエンジン2機ぶんと同じ)。
IKAROSの帆は200m^2なのでその1/10の推力。
●ソーラーセイルの進行方向は太陽から離れていく一方なのか
進行方向に対し加速をすれば太陽から離れられるし、減速をすれば太陽に近づくこともできる(宇宙航法の基本)。
加速と減速は姿勢(太陽に対する帆の角度)を変えることにより可能。
●姿勢制御方法
IKAROSはスラスターと液晶デバイスを備える。
スラスター:燃料が必要だし、大きな帆があるために姿勢を変えるのはたいへん。
液晶デバイス:帆の場所によって光の透過率を変える。光圧を受ける場所と受けにくい場所とを作り出すことによって機体を傾けることができる。
●帆の展開方法
マスト(棒)を伸ばして帆を張る方法と、機体をスピン(回転)させてその遠心力により帆を張る方法が考えられている。
マスト式は簡単だが、大きいサイズになるほどマストの重量が増える欠点がある。
スピン式は難しい(1箇所でも引っかかるとバランスを崩し“コテンッ”といってしまう)ところがあるが、大きいサイズになるとマスト式よりも有利。IKAROSの10倍サイズならスピン式が断然有利。
IKAROSはスピン式を採用。
●IKAROSの次
ハイブリッド機で木星やトロヤ小惑星群(「はやぶさ」が到達したイトカワよりも遠い天体)を目指す。
ソーラー電力セイルにより、日本が太陽系大航海時代を先導する!
●ソーラーセイルでどのくらい遠くまでいけるか
太陽から遠ざかると推力が得られないので限界がある。
木星(太陽からの距離約5AU)くらいまでは行けるが、土星(約10AU)までは難しい。
<抜粋ここまで>
セミナーでIKAROSについてすっかり詳しくなった僕。つづいて展示会場へ向かった。
第4会場の一画にはIKAROSのソーラー電力セイル部(つまり帆)のフライトモデル(FM)が展示されていた。FMってことは本物!こちらはスペアだそうだ。
この大きさを見よ!実際にはこれがあと3つ組み合わさって四角い帆になるわけだ。
帆のうら側は黄色い。帆はポリイミド膜にアルミを蒸着したものでできている。アルミはおもて面にしか蒸着させていないので、うら面はポリイミドの色そのままなのだ。
帆に使われているポリイミドの分子構造。2種類使われている。1の方はポリイミド同士を熱で融着することができる。接着剤を使わないので信頼性が高いのだとか。
太陽電池も薄膜型だ。
これが液晶デバイス部分。
液晶デバイスをずっと見てたら色が変わった!すげー、さすがフライトモデル。ホンモノだー。パッと一瞬で変わる。上の写真と比べてみると色の違いがわかるでしょ。こちらが電源ONの状態。(詳しい説明はコチラ。)
つづいて第1会場へ。こちらは展開機構のプロトタイプモデル(PM)が展示されていた。PMは試験用に作られたモデルのことで、仕様は実機と同一なのでこれも本物といっていい。
奥にある物体がIKAROSの中心部で、そこからこちらに伸びているのが帆だ。折り畳んだ状態になっていて、これが左右に広がることで帆が展開される。さっき見てきた大きな帆が、畳むとこんなに薄くなるのだ。
こちらはIKAROSに搭載されていた機器の一部。円筒形(左側)のものがIKAROS本体から分離するカメラ。宇宙で帆が展開した様子を撮影したやつ。結構ちっちゃいんだね。IKAROSにはDCAM1とDCAM2の2台が搭載されていた。
これが中心部分。展示では折り畳まれた帆がぐるぐるにまとめられてた(写真の左下部分)けど、実際の打ち上げ時は円筒形の本体のまわりにぐるりと巻きつけられた状態になる。セミナーで聞いた、宇宙空間で本体がスピンすると遠心力で帆(先端におもりがついている)が外に広がるっていう場面が容易に想像できる。
説明員の人に話を聞いたら、帆を本体に巻きつける作業は何人かの人の手でやったのだそうだ。引っ張りながら慎重に、破けたら補修をして、っていうように。大量生産品じゃないから必然的にそうなるんだろうけど、宇宙に行く探査機がそんなふうにして作られていたことを想像するとなんだかおもしろい。
IKAROSの展示を見終えて。
事前にセミナーでいろんな話を聞いてたから、実物を見てすごいおもしろかった。これがあれか!って。テンション上がりまくったね。IKAROSすごいよ!作った人えらい!すばらしい!
今回はとてもいいものを見れて、とてもいい勉強になった。IKAROS後継機も楽しみだ。
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